Passed Away
往きて帰らぬ
生まれ育ちが関西だったからか、米朝をテレビで見る機会は多かった様に思う。自分の小学生の頃の「ベッドに入る合図」は、その当時ABC放送(朝日放送系列)で放送されていた桂米朝がナレーションをしていた『味の特等席』とかいう番組であった。
桂米朝を知れば知る程、偉大な人物であると思えてくる。戦後の一度滅びそうになった上方落語を復活させた立役者であることは間違いない。だけれども、本人はその様な意識ではなく、ただただ好きなだけだった様に思う。
それゆえに世間と彼の落語とが乖離している事は否めない。彼は現代の関西弁を落語の中で決して使わなかった。そうではなく船場言葉を巧みに操る。それは現代の関西人からすれば、若干の違和感を感じるだろう。
しかしながら自分にはその船場言葉が、自分を江戸時代へとタイムトラベルさせ、追体験させてくれる装置の様に感じたのである。だからこそ「地獄八景亡者戯」、これは自分が一番好きなネタではあるが。なども違和感なく物語の中へ入り込めたのである。
流石に大師匠であって、一門弟子は相当多い。だけれども幸か不幸か、全く師匠に似ていないのだ。まるで正反対。もう二度と桂米朝の落語は聞けないのである。
手元にある数十枚のCD。今夜は故人を偲んで、もう一度彼の世界に飛び込んでみようと思うのだ。